策定プロジェクト



社内外に事業の存在意義を問い、
社員の志とお客様の共感を醸成。
outline
2021年、15年ぶりに小田急不動産・リテール仲介業の営業黒字化が実現した。その背景には、業績回復への切り札として、それまでなかった「事業理念」をゼロからつくり上げたプロジェクトの成功があった。事業理念策定後、仲介営業部メンバー全員にその志を浸透させるとともに、広く社外に発信し、お客様の共感を醸成。それは、小田急不動産の仲介事業のイメージを一変させるチャレンジでもあった。
project flow
presentor

yasunobu kawamura
河村 康伸
商学部 商学・貿易学科卒
1986年入社
取締役 仲介営業部長
入社後、仲介事業部門 柏営業所に配属。5年間にわたり、不動産売買の仲介業務を担う。その後、総務部や仲介事業のラインスタッフなどを経て、住宅事業本部品質管理部へ異動。販売物件の施工管理・アフターサービスに従事。2019年より現職。

masataka yamao
山尾 正尭
法学部 法律学科卒
2004年入社
仲介事業本部 仲介営業部 営業企画グループ
入社後、住宅事業本部 住宅販売部に配属。その後、経営企画本部 経理部を経て、同本部 総務部 人事グループで採用、教育、労務の実務を経験。2016年に現在の部署に異動。仲介営業店舗の支援を幅広く行っている。
beginning
仲介事業の業績回復への道標。
それは、全員共通の旗となる「事業理念」。
住宅事業本部 品質管理部に所属していた河村康伸が、仲介営業部の部長に任命されたのは2019年のことだった。「私は2007年に柏営業所長から異動して以来、12年間仲介事業から離れていましたので、最初は、なぜ今さら、という気持ちでした」
当時、リテール仲介業は営業赤字が続いていた。歴代の部長をはじめ多くの社員が数字を上げるため懸命にあらゆる施策に取り組んできたにも関わらず、である。河村は考えた。12年ぶりに自分が戻るということは、“よそ者”ならではのアプローチを期待されているのではないかと。


河村が改めて思ったのは、仲介営業部内の共通目標は売上予算しかないということ。しかし、それは内部的な目標であって、お客様には関係のないことである。「小田急不動産は何のために仲介業を行っているのか?」「世の中に対し、他社にはないどのような価値を提供できるのか?」を皆で議論し、売上予算の上に立つ、全員共通の旗となる「事業理念」をつくることが急務だと考えた。「全員と同じ思いでこの仕事をやりたい」、その一心だった。
一方、2016年より仲介営業部 営業企画グループで営業店舗の支援を担っていた山尾正尭は、「何とか仲介事業の業績を上げようと、新しい営業施策を実行しては、失敗して、疲弊して…」ということを何度も繰り返してきた結果、改めて何かゼロから考え直さなければと感じていた。「ワークショップを実施しても、いつも意見がバラバラでまとまらず紛糾していました。これではまずい、何か拠り所が必要だと思い、ゼロから考え直すフレームを探していて……。そんな中で事業理念をつくる必要があるという結論に至ったのです」
そして迎えた河村の着任前日。山尾は河村にコンタクトを取り、「事業理念をつくりたい」という思いの丈を伝えた。「こちらの思いをどう評価してもらえるか不安でしたが、話してみると、お互いに『そういうことが大事なんだよね』とスッと気持ちがつながって、本当にうれしかったですね」。一方の河村も「思いも寄らず、自分と同じ考えをぶつけられ、こんなこともあるんだと驚くと同時に運命を感じました」と振り返る。
かくしてここに、リテール仲介業の事業理念策定プロジェクトが立ち上がった。

formulation
「小田急沿線を好きだという気持ちはどの会社にも負けない」。
すべてはここから始まる。
河村は着任後すぐに、担当役員に対して、事業理念策定プロジェクトの立上げについて理解を求めた。この時、担当役員から次のアドバイスをもらった。「新任の部長がいきなり新しいことをはじめようとしても、その意図がうまく伝わらなければ反発を招きかねない。直接、自分の思いを自分の言葉で伝えた方がいいんじゃないか」と。
そこで河村が着手したのが全店舗回りだ。 1店舗あたり1時間、事業理念の必要性を訴え、事業理念策定プロジェクトに参加してくれる仲間を募った。
しかし、河村の思いとは裏腹に、「事業理念で業績が上がるのか」「そんなプロジェクトに使うお金があるなら、我々に還元してほしい」という厳しい声も聞こえてくる。店舗回りに同行していた山尾はあまりの反発の強さに衝撃を受け、「自分自身が強い信念を持ち続けなければ、このプロジェクトは先に進まないだろう」と改めて身を引き締めた。
そんな中名乗りを上げてくれたのは、若手を中心とした10名の社員だった。「営業もいれば店長職も庶務の方もいて……。必要性を感じてくれた人がいたのが心強かった」と河村は喜んだ。その後、河村は山尾に頼んで、この10人の他に、「積極的に賛成はしていないけど、その人が賛成に転じたら部内に影響力がありそうな人」を選出してもらい、最終的には全21名でプロジェクト(小田急のミライプロジェクトと命名)を組成した。


このプロジェクトでは、『志あふれる、日本をつくる。』をVISIONとして掲げる株式会社パラドックスに伴奏していただくこととし、プロジェクトメンバーと、2019年6月〜10月までの約5カ月間、1回あたり3〜4時間のセッションを全8回開催し、事業理念づくりのため議論を尽くした。しかし、4回目あたりまではまったくゴールが見えない状況だった。「リテール仲介に連綿と受け継がれる“DNA”を掘り下げることからはじめたのですが、みんなから出された意見はバラバラにしか思えず、辛いセッションが続きました」と山尾は言う。しかし、回を重ねていくごとに、バラバラに思えていた意見も括り直すと、案外同じことを示していることが分かり、メンバー同士がお互いに親近感を覚え始め、セッションは次第に熱を帯びてきた。
そして運命のセッション5回目。メンバーの一人が発した一言が流れを決めた。「小田急沿線が好きだという気持ちは、同業他社のどこにも負けないよね」。途端に他のメンバーから「そうだ、そうだ」と賛同の声が上がり、そこからは一気に議論が加速。山尾も手応えを感じた。「小田急沿線が好きだというのは当たり前すぎて、みんな口にはしてこなかったのですが、言葉にすると一番腹落ちしたんですよね」
最終的には、「MISSION: この街を愛し、ここにしかない人生の景色を描く。」「VALUE: お客様にとって価値ある情報を見極めます。本当に望む未来をともに描きます。期待を超えたストーリーで、感動を生みます」そして、「『この街のプロフェッショナル』としての4つのSPIRIT」から成る事業理念が導き出された。

策定した事業理念概念図
branding
社内外に事業理念を発信・浸透させ、
共感の輪を広げるとともに業績向上へ。
事業理念ができあがっても、リテール仲介に携わる全メンバーにその志が浸透しなければ絵に描いた餅に過ぎない。そこで“インナーブランディング”を進めるべく、2020年1月、仲介営業部全メンバー160人が一堂に会し、事業理念のリリースイベントを開催。仲介事業本部長はじめ河村、山尾、プロジェクトメンバーが次々と登壇し、事業理念をつくった経緯やその思いについて説明するとともに、3組のお客様のインタビュー動画を上映した。「お客様に当社の良かったところやその後のお客様の暮らしや人生の話をしていただきました。それがメンバーの心に響いたようで、思わず泣きだすメンバーもいました。“自分たちは小田急沿線の街に暮らすお客様の暮らしや人生を支える仕事をしているんだ。”改めて自分たちの事業の存在意義、大切にすべき価値観、進む方向を認識できました」と山尾は言う。

まちまちの特設サイトはこちら 「まちまちストーリーズ」
その後も、全メンバーにリリースイベントで感じてもらった「事業理念」への思いを消さず、心に灯し続けてもらう。それができてはじめて事業理念が、お客様と接する日々の業務の中で体現され、やがては業績回復につながっていく。この流れをつくるべく、仲介営業部ではさまざまなインナーブランディング施策を実行している。例えば、部内SNS「VISIONS」や、部内での「木鶏会」の実施はその一環だ。「VISIONSの目的はみんなで気持ちを語り合う場をつくること。自分の成功事例や街の情報を部全体でシェアして、みんなでつながってやっていこうと考えています。また、木鶏会の目的は褒める文化を醸成すること。例えば、何かに挑戦した結果うまくいかない時も、そのプロセスを褒めないと、誰もチャレンジしなくなると思うんです。また、新たなチャレンジというのは、最初は成果が出にくいもの。そこで背中を押す意味でも褒めることは重要だと考えています(山尾)」

並行して山尾は、策定した事業理念を広く社外に発信し、お客様からご共感をいただく、“アウターブラディング”を進めた。その目玉の一つは、小田急沿線の街にまつわるフィクションの物語を集めた冊子「まちまち」の発刊だ。「最終的に現在の形になるまでは試行錯誤しました。いくら外面がいいものをつくっても、それに共感してご来店されたお客様が、イメージと違うではないかとがっかりされるようでは逆効果です。そこで突破口になったのは、私たちがこれまでお客様に相対してきた中で蓄積してきた、街に暮らす人たちの情報です。私たちは仲介業を通してかなり深い人生の話をします。それらが束になった時、すごく価値のある情報となるのです。そのベースがあれば、その街に今暮らしている人が読んでも、その街らしいなと唸るようなお話がつくれるはずだと。結果、営業へのインタビューを繰り返して集めた情報をもとにつくられた「まちまち」のフィクションの物語は、その街に暮らす人と価値をシェアできるものとなりました」
「まちまち」は、最初からご来店されたお客様や小田急グループの会員組織のお客様から多くの共感メッセージをいただき、その後も発刊を重ねている。「まちまちNo2」は日本BtoB広告賞のグランプリである経済産業大臣賞を受賞。「まちまちNo3」では、グループ内だけでなく、地域のアイデンティにお役に立てないかと考え、街の商店街に声をかけはじめ、これまでに100店舗、「まちまち」を設置していただくなど、共感の輪をどんどん拡大中だ。「最終的には、沿線の各街が地域愛に溢れ、愛着ランキングの上位を独占する状態をつくりたい」と山尾は意欲を燃やしている。
こうしたインナーブランディング、アウターブランディングの取り組みを通して、事業理念は確実に仲介営業部メンバーに浸透し、その業務に好影響を与えている。「まず若手の成績が非常に上がりました。お客様の前で、最初に事業理念が掲載された小冊子を開いて説明しながら自己紹介すると、ごく短い時間で信頼や共感が得られるのだそう。それを聞いた時は今回のプロジェクトは大成功だったなと思い、うれしさが込み上げました」(山尾)
そして2021年、大きな成果がもたらされた。15年ぶりに事業の営業黒字化を達成したのだ。河村は力強く語る。「事業理念という共有言語で、同じベクトルに向かうことができるようになったことで、迷いや判断のブレが少なくなったことが、業績好調の大きな要因だと思います」。山尾も言う。「“自分たちがやらなくてはいけないこと”を軸に考え抜いて、社内の同志と気持ちでつながって頑張れば、こういうことが起きるのだと実感したし、この感覚を後輩にも継承していきたいと考えています」
「自分たちが考えてきたことは間違っていない。自分たちを信じて、まだやれる。」二人はそんな強い気持ちを持つとともに、本プロジェクトの成果を確かなものにし続けるために、今も日々努力を重ねている。
掲載情報は2022年12月時点のものです
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